青雪江ゼミの振り返り

Wathematicaで行っていた青雪江ゼミがつい先日終了したのでその活動報告をします!

ゼミの概要

その名の通り、使用教科書は雪江明彦先生の『代数学2 環と体とガロア理論』(日本評論社)です。最近新版が出ましたね。

1人1節ぐらいで発表担当をあらかじめ決めておいて発表する輪読形式のゼミを行なっていました。自分が2022年1月頃から群論のゼミをしていたのですが、その続編として2022年夏頃にこのゼミは始まりました。週1回、空きコマを使って90分程度やっていたのですが、特に長期休暇中は予定が合わないことも多く、1年以上続く長期ゼミとなりました。ちなみにWathematicaはありがたいことに今年度から公認サークルとなっているのですが、早稲田大学の公認サークルガイドに掲載している写真の1つは青雪江ゼミのものです。

長続きしたゼミなのでメンバーは入れ替わりがあったのですが、だいたい6人ぐらいでゼミを回していました。最終的には全員数学科でしたが、物理系の人も参加してくれたことがありました。現B3が多数でしたが、B2数学科の2人が最後まで参加してくれましたね。すごい。

内容について

このゼミの方針として、節のタイトルに*がついているものと、演習問題は基本的に飛ばしました。(むずかしいので...)

第1章 環論の基本

このゼミが始まる前の群論ゼミは同じく雪江先生の『代数学1 群論入門』(日本評論社)を使っていて、その続きとしてまずは環論の基本を学びました。イデアルの話とかもうかなり前の記憶になってしまいましたが楽しかったです。一番印象に残っているのは「k代数」かもしれない。この概念が何がしたいのかよくわからなかった。「k代数の準同型」ってのがガロア理論のところですごく重要になります。この章で一番大事なのはもちろん「§1.11 一意分解環・単項イデアル整域・ユークリッド環」ですよね。特にUFDの性質は代数学の授業の試験でもめっちゃ使った記憶があります。この章で示す性質の中には3章や4章でいきなり使うものがあって、出てくる度に戻るのが大変でしたね〜(命題1.11.38有限体の乗法群は巡回群、定理1.12.11アイゼンシュタインの判定法、など)

ちなみに最後のネーター環アルティン環については全然理解できていません(汗)

第2章 環上の加群

前半は線形代数の復習みたいな感じで勉強になりました。後半はザ・代数って感じ。§2.7の有限性の話はその後の体論でも使うのでちゃんとやった方がいいですが、それ以外はガロア理論(方程式の可解性)の理解のためには正直やらなくてもいいです。テンソルの話とか完全列とか自分は全然分かってません(泣)。代数幾何とか代トポとかやりたい人は全部ちゃんと読んだ方がいいと思います。

第3章 体論の基本

今年の4月ぐらいから3章に入りました。ここから体の話。楽しくなります。§3.1は自分が丸々発表担当したんですが結構長くて大変でした。§3.2では代数閉包の存在を示すのですが、Steinitzのアイデアはすごいなーと驚いた記憶があります。あとは分離拡大、正規拡大、単拡大、有限体の性質など大事なことばかりです。演習問題をちゃんとやると代数学の授業のテスト勉強に良さそう。

第4章 ガロア理論

これも§4.1が長い。自分が発表担当だったんですがキツくて基本定理のところはバトンタッチしちゃいました。体の拡大で正規拡大かつ分離拡大であるものをガロア拡大と言って、それをL/K(LがKのガロア拡大)とします。このときL上のK自己同型群のことをLのK上のガロアといいます。ここまで長いこと出番がなかった群論ですが、ガロアの発想のすごいところは、「ガロア拡大な体の列があるとそれが正規部分群の列に対応して、体のガロア群が対応する群の剰余群になる」というところです。それを示したものがガロアの基本定理で、方程式の可解性の証明で一番大事なものになります。この節のあとは具体的な3次方程式や4次方程式の解法を眺めて「方程式が解けるとはどういうことか?」ということをなんとなく理解し、円分体や作図問題、クンマー理論の話を挟んで方程式の可解性の節に入ります。方程式の可解性の証明はめちゃくちゃ長いし行間もあって大変でしたが、何をやっているのか理解できるとすごく楽しかったです。

ゼミを振り返って

「5次以上の方程式に(代数的な)解の公式が存在しない」という言葉は有名な話で、自分は高校生の頃にこの言葉を聞いて、大学の数学に興味を持ちました。数学科に入って理解したいことの1つとしてガロア理論というものをずっと夢に見ていたので、青雪江ゼミをこのような形で終えることができてすごく嬉しいです。このゼミの前身となる群論ゼミはB1の1月ごろに始まったので、そこから数えれば2年近い期間、雪江先生の代数学の本でゼミをしていたことになります。群論ゼミが始まった当時の自分は対面のゼミをほとんどやったことがなく、大学数学の勉強も授業以外ではまともにやっていませんでした。ですので自分は雪江先生の代数学の本を通じて大学数学との向き合い方を学んだとさえ思っています。結局のところ自分は代数学の道には進まないのですが、雪江先生の代数学の本にはたくさんの思い入れがあります。また、ずっと自分がゼミ長をやっていたのですが、長いこと一緒にゼミをやってくれた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

最後に

Wathematicaでは雪江先生の代数学の本でゼミをやるのが伝統みたいになっていて、現在はB2の数学科でやってる「青雪江ゼミ2023」やB1の物理系の会員を中心に頑張っている「群論ゼミ」があります。もしもこの記事を読んでくれた早稲田生でまだ代数学を全然勉強したことがない方がいましたらこれらのゼミに参加したり新しくゼミを立ててみてください。

自分はこれだけ代数のゼミをやっていましたが、実は解析専攻(の予定)でして、もう代数やるつもりはありません(笑)。ただガロア理論はめっちゃ面白かったので、まだ大学の代数の授業もあるし復習したいなーとは思っています。ガロア理論って方程式の話だけだと思っていたんですが、深く学んでいくとガロア被覆とかいう幾何っぽいテーマがあるらしいですね。まぁ自分はその辺はやるつもりはなくて(笑)、代数を勉強するなら方程式の可解性に関するテーマの理解をもっと深めていきたいかなと思っています。図書館でちょっと借りたことがある『ガロア理論の頂を踏む』とか『ガロア理論講義』なんかを読んでみたいなぁ。あと、体論を学んだら雪江先生の整数論の本の最後の方をちゃんと読もうとか思っていたのをすっかり忘れていました。どうしようかなw

 

とりあえずこの辺で。Twitterをブログにしただけみたいなとても雑な記事でしたが読んでくださりありがとうございました。ガロア理論面白いのでぜひやりましょう。

参考文献

[1] 雪江明彦,代数学1 群論入門,日本評論社

[2] 雪江明彦,代数学2 環と体とガロア理論,日本評論社

[3] 石井俊全,ガロア理論の頂を踏む,ベレ出版

[4]足立恒雄,ガロア理論講義[増補版],日本評論社

[5]雪江明彦,整数論1 初等整数論からp進数へ,日本評論社

abがpの倍数ならaまたはbがpの倍数?

もうすっかり寒くなってしまいました。7月に群論の記事を書きましたがそれからもう半年近く経過しているようで、時の流れが早すぎてびっくりします。
今回もサークル企画の一貫として記事を書くことになりました。本日の内容は"環論を使った整数の性質の考察"です。多くの方に読んでいただけると嬉しいです。

本題

本日のテーマは次の命題です。

命題
 a,bを整数、 p素数とする。
このとき、 ab pの倍数ならば aまたはbpの倍数となる。
この記事のタイトルにも使った主張です。
皆さんだったらこの命題をどのように証明しますか?
多分高校生の頃の僕だったら次のように考えます。
証明?
abがpの倍数ってことはabの素因数分解(aとbの素因数分解を合わせたものと同じ)に素数pが出てくるからaの素因数分解かbの素因数分解にpが出てくるのでaまたはbが絶対にpの倍数!
これは正しいことを言っているようで実はめちゃくちゃなんです。
最初の「abがpの倍数ならabの素因数分解にpが現れる」が実は明らかではありません(逆は明らかですが)
a, bがともにq, rという素数だとして単純化しましょう。このときの主張は
 qr pの倍数ならばq=pまたはr=p*1
となりますが、これは"素因数分解の一意性”によって保証されます。
そして素因数分解の一意性の証明に実は最初にあげた命題を使うので、上の説明は循環論法になってしまうのです。

これが命題にちゃんとした証明を与えるべき理由です。これから証明を与えますが、この命題が自明でないということが分かっていただければもう十分です(笑)。素数、約数、素因数分解といった根本的な概念に戻る必要があるので、僕はこの問題意識を理解するのにかなり苦労しました。正直まだ完全に頭の中で繋がっていないような気がするので、上の説明に関して何か質問や補足がありましたらコメント欄かTwitter (@mafigure0608)までお願いします。

証明の方法

命題の証明方法としてはユークリッドの互除法の帰結として初等的に示すのが一般的かと思います。ただ、その方法で証明している記事はおそらくたくさん存在するのでこの記事では整数の集合 Zが環になることを利用して環論を用いた証明を与えます。(結局最後にユークリッドの互除法を使います。)
環論の言葉を使うと命題は (p)が素イデアル」と言い換えることができます
この言い換えを理解するためにこれから環論の概念をいくつか見ていきましょう。

イデアルと素イデアル

まずは環論で非常に重要な概念である"イデアル"の定義を述べます。(環の定義は省略させていただきます)

定義(左イデアル)
 Aを環とし,  I Aの加法に関する部分群とする。 I Aイデアルであるとは、
 A, Iからそれぞれ任意に a, xという元をとってきたとき
 ax\in{I}が成立することである。
"左イデアル"という言葉を使っていますが、 aを右からかけて Iの元になる場合は右イデアルと呼ばれ、 A可換環であれば左イデアルと右イデアルの区別は必要ありません。整数の性質を考えるうえでは環は可換としても差し支えないので、この記事では左イデアルをそのままイデアルと同様に扱います。
ここで、 Aの元 xについて、Aの任意の元をかけたもの全体の集合を (x)で表します。すなわち
 (x)=\{ax | a\in{A}\}
これは xを生成元とする単項イデアルと呼ばれます。
単項イデアルの簡単な例として倍数全体の集合があります。ある素数 pの倍数全体の集合は (p)と書くことができます。

次に素イデアルを定義します。

定義(素イデアル
 Pを環  Aの真のイデアル*2とする。 P Aの素イデアルであるとは以下が成立することである。
Aの元 a, bに対して
 ab\in{P}\Rightarrow a\in{P}または b\in{P}
以上でイデアルと素イデアルを定義しましたが、これらにより最初にあげた命題は
 a, b\in{Z}について ab\in(p)\Rightarrow a\in{(p)}または b\in{p}すなわち

 (p)が素イデアル

と環論の言葉を用いて書き換えることができるのです!興奮してきましたね。

ただ、あるイデアルが素イデアルであることを直接示すのって結構難しいです。*3
そこで素イデアルより強い概念である"極大イデアル"を導入して (p)が素イデアルであることを間接的に示します。

極大イデアル

定義(極大イデアル)
 Mを環  Aの真のイデアルとする。 M Aの極大イデアルであるとは次が成立することである。
 I Aイデアルとするとき M\subsetneq{I}\Rightarrow I=A
すなわち、自分以外の真のイデアルに含まれないということです。
ここで次の定理が成り立つことが極大イデアルの嬉しさです。
定理
極大イデアルは素イデアルである。
非常に申し訳ないのですが記事を出来るだけコンパクト*4にしたいのでこの定理の証明は割愛させていただきます。最後に (p)が極大イデアルであることを証明しましょう。

命題の証明

ここまで環論の知識を使ってきたわけですが、結局最後はユークリッドの互除法から導かれる以下の補題*5を利用します。(ユークリッドの互除法はすごい。)

補題
 a, bを整数とする。このとき gcd(a,b)=1ならば
 ax+by=1の整数解 (x, y)が存在する。
補題の証明は略します。それでは命題の証明をしましょう。まずは (p) Zの極大イデアルであることを示します。
命題の証明
 Iイデアルとして (p)\subsetneq{I}とする。このとき I-(p)\neq\emptysetだから a\in{I-(p)\subset{I}}がとれて、このとき apの倍数でないことと p素数であることから gcd(a,p)=1なので
 ax+py=1を満たす x, y\in{Z}が存在する。ここで p\in{(p)}\subset{I}であり、 Iイデアルであることより ax pyIの元となるから ax+py\in{I}
よって 1\in{I}となるが、 Iイデアルなので結局  I=Z*6となるから (p) Zの極大イデアルである。
そこで定理を使えば (p)は素イデアルとなるから命題が証明できた。(証明終)

おわりに

最後まで読んでいただきありがとうございました!思った以上に必要な概念が多く、証明をかなり省略してしまった部分があったのですが流れだけでも理解していただけると嬉しいです。素因数分解の一意性やユークリッドの互除法って高校生のときは全くありがたみが分からなかったんですが、環論を学んでいるとこれらが使える整数ってすごいんだなってことが分かって感動するので興味ある方はぜひ勉強してみてください。

参考文献

[1] 雪江明彦(2010)代数学2 環と体とガロア理論.日本評論社
[2] 永井保成(2022)講義:代数学序論(早稲田大学理工学術院)

おまけ

もうあっという間にクリスマスですね。僕のイチオシのクリスマスソングを聴いてください。
youtu.be
今年のクリスマスはコンビニケーキと冷めたチキンを用意しましょう。

*1:正確には±1倍を考慮する必要があります。

*2:真部分集合かつイデアルということ

*3: (p)が素イデアルであることを環論の知識で直接示す場合はZがPID(単項イデアル整域)であることを示す必要があります。

*4:任意の開被覆が有限部分被覆を持つという意味ではない。

*5:この補題はPIDにおいて一般化されます。

*6:イデアルIに1があるということはAのどんな元を1にかけてもIの元となるということなので結局I=Aとなります。

剰余群と準同型定理

はじめまして!数学科B2の「じふ」と申します。自分が所属しているサークルの企画として記事を書くことになりました。
今回は群論の重要な定理である「準同型定理」のお気持ちを「剰余群」の概念と絡めて理解していくという内容になります。
初めてのはてなブログTeXも1年近く触っていなかったので拙い記事となるかもしれませんが最後まで読んでいただければ幸いです。

剰余類

まずは群を考えるうえで非常に重要な
「剰余類」を定義します。

定義1
 H Gの部分群とする。このとき Gの元 xに対して
 xH=\left\{xh  | h\in{H} \right\} x Hによる左剰余類と呼ぶ。*1
 Gの元の Hによる左剰余類全体の集合を G/Hと表します。 G/H Gのある元による左剰余類をまとめて1つの元とみなしていることに注意してください。
このとき次の定理が成り立ちます。*2
定理1
 Gの元   x, yに対し
 xH=yH\iff x^{-1}y\in{H}
あんまり記事を長くしたくないのでこの定理の証明は割愛させていただきます。*3

正規部分群と剰余群

 G/Hという新しい集合を考えましたが、今は群論をやっているので、集合を考えたらそれを群として取り扱いたいです。集合を群として取り扱うためには演算が必要ですね。 G/Hの元は左剰余類なので、左剰余類についての演算を以下のように定義することを考えます。

定義2
 g,h\in{G},  N Gの部分群とする。このとき
 (gN)(hN)=(gh)N
実は、この定義は定義として不十分です。
定理1で示したように Gの元としては異なる元であっても剰余類にしたら同じものになる場合があります。よって、 gN=g'N, hN=h'Nとなるような g', h'を取ってきたときにちゃんと ghN=g'h'Nとなっているかどうかを確かめなければなりません。これはwell-definedと呼ばれる概念です。*4
この演算は、Nが「正規部分群」であるときにwell-definedとなります。
正規部分群の定義を以下に述べます。
定義3
 N G正規部分群であるとは
 N Gの部分群であり、 N,Gの任意の元 n,gに対し gng^{-1} \in{N}
が成立することである。このとき N\triangleleft Gとかく。
 N\triangleleft Gのとき定義2の演算がwell-definedとなることの証明
 gN=g'N, hN=h'Nとなるような g, h, g', h'\in{G}をとる。このとき (gh)^{-1}(g'h')\in{N}がいえれば定理1より ghN=g'h'Nが従う。
 (gh)^{-1}(g'h')\in{N}=h^{-1}g^{-1}g'h'で、 gH=g'Hより g^{-1}g'\in{N}だから g^{-1}g'=n\in{N}とかけて、 N\triangleleft G h^{-1}h'\in{N}より
 h^{-1}nh'=h^{-1}nhh^{-1}h'\in{N}
よって (gh)^{-1}(g'h')\in{N}
すなわち ghN=g'h'N (証明終)

 N\triangleleft Gのとき、左剰余類の集合 G/Nは上の演算について群となることを確かめてみてください。*5
この群を単に「剰余群」と呼びます。
剰余群の例を見てみましょう。

 G=C-\left\{0\right\}( Cから0を抜いたもの)、 N=\left\{z |  |z|=1\right\}とします。このとき G, Nはともに乗法に関して群となります。そして N\triangleleft Gが成立します。*6
このとき G/Nの元がどのようなものかを考えてみましょう。
まず、 G/N Gの元の Nによる左剰余類全体の集合なのでその元は g\in{G}を用いて gNと表されます。ここで定理1を用いると
 gN=hN \iff g^{-1}h\in{N}となりますが、 g^{-1}とはこの場合 gの逆数のことで、 g^{-1}h\in{N}とは g^{-1}hの絶対値が1になる、すなわち |g|=|h|ということです。まとめると、 gN=hN \iff |g|=|h| つまり、
 G/N偏角の違いは無視して絶対値が等しい0以外の複素数を全て1つの元としてまとめた群となります。ここでとても強引な推測をします。偏角の違いは無視...ってこれって0以外の実数の群とほぼ同じと考えられないでしょうか?実はこの考え方は正しく以下が成立します。
 G/N\cong\mathbb{R} -\left\{0\right\}
いきなり \congという記号が出てきましたが、これは「同型」を意味しています。

準同型定理

改めて準同型、同型の定義を以下に述べます。

定義4
 G, Hを群とする。このとき任意のx, y\in{G}について写像  f: G→H
 f(xy)=f(x) f(y)
を満たすとき f準同型写像と呼ぶ。
また、全単射準同型写像のことを同型写像と呼び、 G, Hの間に同型写像が存在するとき G H同型であるといい G\cong Hと書く。
準同型とは簡単に言えば
「群の演算と写像が可換」ということを意味しています。剰余群の例として上に挙げた Gから Nへの写像 f: z\mapsto\frac{z}{|z|}が準同型であることを確認してみてください。
準同型写像について以下の事実が成立します。
補題1
 G, Hを群とする。 f: G→H準同型写像であるとき,
 \textrm{Ker} f\triangleleft G
証明
 G, H単位元をそれぞれ e, e'とする。
 f準同型写像のとき、
 f(e)f(e)=f(e)より f(e)=e'であり、これより
 f(x)f(x^{-1})=f(xx^{-1})=f(e)=e'
 f(x^{-1})f(x)=f(x^{-1}x)=f(e)=e'
だから f(x)^{-1}=f(x^{-1})が成立する。よって、
任意の x\in{\textrm{Ker} f}について f(x^{-1})=f(x)^{-1}=e'より x^{-1}\in{\textrm{Ker}f}
また、任意の x, y\in{\textrm{Ker}f}について f(xy)=f(x)f(y)=eより xy\in{\textrm{Ker}f}
以上より \textrm{Ker} f Gの部分群である。
また、任意の g\in{G}, n\in{\textrm{Ker} f}について
 \begin{eqnarray}
f(gng^{-1}) &=& f(g)f(n)f(g^{-1}) \\
  &=& f(g)f(g^{-1})\\
 &=& e'
\end{eqnarray}
より、 gng^{-1}\in{\textrm{Ker} f}
以上より \textrm{Ker} f\triangleleft G (証明終)

2つの群が同型であるとき、2つの群は群としての性質が一致します(たとえば可換群と同型な群は必ず可換群です*7)。よって、ある群と同型な群を見つけるということは数学的にとても意義のあることになります。
準同型と同型について軽く説明したところで、最後に以下の定理を紹介します。

定理2: 準同型定理
 G, Hを群とする。 f: G→H準同型写像であるとき,
 G/\textrm{Ker}f \cong \textrm{Im}f
(※)補題1より \textrm{Ker}f\triangleleft Gが成立するので G/\textrm{Ker}fは群になっています。また、 \textrm{Im}f Hの部分群です。(証明略)
この定理を詳しく証明することはせず、お気持ちだけを話します。
この定理が言ってることは「準同型があれば同型が作れるよ!」ということです。
 \textrm{Ker}f \textrm{Im}fが出てくる理由を理解すればこの定理をスッキリ頭に入れることができます。
準同型写像が既に存在するので、そこから同型写像を作るには全単射を作ればいいです。
そこで、写像の終域を \textrm{Im}fにすることで全射にしています。これは想像しやすいですね。
重要なのは \textrm{Ker}の出てくる理由です。 fは一般には単射ではないので、 \textrm{Im} fのある元 yを取ってきたとき、 fによってそこに飛ぶような Gの元は複数存在すると考えられます。
イメージ図を下に示します。

あるyに行くGの元の集まりを同じ色で塗りつぶして表しています。
ここで「同じ色で塗った部分を1つの元としてみれば単射になる」ということに気づきましたでしょうか?
そして剰余群の例にもあったように、剰余群とは「ある”関係”を満たす元を1つの元としてまとめた」群です。勘の良い方はもうお気づきでしょう。この同じ色で塗った部分こそが G/\textrm{Ker}fの元なのです。これアツくないですか。最後にこれを補題として確認して終わりにします。同じ色で塗りつぶした部分は y fによる逆像、すなわち f^{-1}(y)といえますね。(一般には逆写像ではなく逆像であることに注意してください)。
補題2
 G, Hを群とする。 f: G→H準同型写像であるとき,
すべての y\in{\textrm{Im}f}に対しある x\in{G}が存在して
 f^{-1}(y)=x\textrm{Ker}f
証明
 y\in{\textrm{Im} f}について f(x)=yとなる x\in{G}は必ず存在するのでその xを用いる。
まずは f^{-1}(y)\supset x\textrm{Ker}fを示す。
任意の x\textrm{Ker} fの元は \textrm{Ker} fのある元 nを用いて xnと表せる。
 \begin{eqnarray}
f(xn) &=& f(x)f(n) \\
  &=& f(x)= y
\end{eqnarray}
より、 xn\in{f^{-1}(y)}
よって f^{-1}(y)\supset x\textrm{Ker}f
次に f^{-1}(y)\subset x\textrm{Ker}fを示す。
任意の g\in{f^{-1}(y)}に対し
 f(x)=y, f(g)=yより f(x)=f(g)
 f(g^{-1})f(x)=e'  fは準同型なので
 f(g^{-1}x)=e' だから g^{-1}x\in{\textrm{Ker}  f}
よって定理1より g\textrm{Ker}  f = x\textrm{Ker}  f  g\in{g\textrm{Ker}  f}だから
 g\in{x\textrm{Ker}  f}ゆえに
 f^{-1}(y)\subset x\textrm{Ker}f
以上より f^{-1}(y)=x\textrm{Ker}f (証明終)

以上まとめると、準同型写像があったときに \textrm{Im}を用いて全射 \textrm{Ker} を用いて単射にして同型を作るのが準同型定理の意味だということです!

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。
私は最初に群論を勉強したときに剰余群でつまづき、準同型定理が何を言っているのかわかりませんでした。
そんなときに受けた代数学の授業で準同型定理の意味を知りとても感動したので、剰余群との繋がりも意識して記事としてまとめた次第です。
今後も代数学に関する記事を書いてみたいと思っています!
何か質問やツッコミがあれば私のTwitter(@mafigure0608)にDMでご連絡お願いします。

参考文献

[1] 雪江明彦. 群論入門 / 雪江明彦著. 東京, 日本評論社, 2010

おまけ

最近メチャクチャ暑いですね。
こんな季節に聴きたくなる曲が乃木坂46の『逃げ水』ですよね。
今まで聴いてきた夏曲の中でもかなり好きなのでぜひ聴いてください。
youtu.be

*1:「左剰余類」があるのでもちろん「右剰余類」もありますが、Hが正規部分群であるときは左剰余類と右剰余類は一致し、この記事の本題となる準同型定理ではそのような場合だけを取り扱うのでこの記事では「剰余類」といったら単に左剰余類のことを指すと考えて大丈夫です。

*2:雪江明彦先生の「代数学1 群論入門」では x^{-1}y\in{H} を同値関係とする商集合として左剰余類を定義していますが、これよりも定義1の方が圧倒的に定義のイメージがしやすいので本記事ではそれを定義として採用しています。定理1と同値類の性質によりどちらを定義にしても問題ないということが保証されます。

*3:普段は「この証明は読者への演習問題とする」にキレている私ですが、自分で記事を書いてみると証明を略したい気持ちがわかりますね。証明は至って簡単で、 x^{-1}y\in{H}のときある h\in{H}を用いて x^{-1}y=hとかけることを利用します。

*4:well-definedは一般には同値類を元とするような写像を考えたときに必要となる概念です。剰余類も同値類の一種なのでwell-definedについて考える必要があります。well-definedを理解するにはまずill-definedな例を調べてみるといいと思います。

*5:単位元はNとなります。

*6:絶対値1の複素数は逆数も絶対値1で、絶対値1の複素数どうしを掛け算しても絶対値は1なので部分群。実数の演算なので可換だから gng^{-1}\in{N}もすぐに言えますね。

*7: G\cong Hのとき、 Hの任意の2つの元は x, y\in{G}を用いて f(x), f(y)と表すことができ、準同型より f(xy)=f(yx)となることから従います。